働く未来デザイン

組織が人を育てなくなる瞬間は、どこで決まるのか

組織が人を育てなくなる瞬間は、どこで決まるのか

2026年01月28日 12:59

こんにちは。

リサーチラーニングラボ代表の細井友和です。

本日は、【組織が人を育てなくなる瞬間は、どこで決まるのか】という題目で論じてみたいと思います。


多くの企業は「人材育成が重要だ」と口では言います。採用ページには「人を大切にする会社」「成長できる環境」という言葉が並び、研修制度やキャリア支援の仕組みも用意されています。

しかし現場に目を向けると、「育てる余裕がない」「自分で覚えてもらうしかない」という空気が漂っている組織も少なくありません。

では、組織が“人を育てなくなる瞬間”は、いったいどこで決まるのでしょうか。

それは、現場の上司や人事部の怠慢だけで起きるものではありません。もっと上流、もっと構造的なところで、すでにスイッチが入っていることが多いのです。


1. 育成が止まるのは「忙しさ」が原因ではない

よくある説明はこうです。

「今は忙しすぎて育成どころじゃない」

「人が足りないから、教える時間が取れない」

確かに、業務量が過剰な環境では育成が後回しになりがちです。しかし、忙しい組織でも人を育て続けている会社は存在します。逆に、そこまで忙しくないのに、誰も育てようとしない組織もあります。

この違いを生むのは、“忙しさ”そのものではなく、「この組織は人を育てる価値があるのか」という無意識の判断です。

その判断が、ある地点で“NO”に傾いた瞬間、育成は一気に形骸化します。


2. 決定権は現場ではなく「経営の視点」にある

組織が人を育てなくなる瞬間は、多くの場合、経営レベルの意思決定で決まります。

たとえば、こんな問いが経営会議で交わされたとします。

「この会社は、今後どこで利益を出していくのか」

「人材は“資産”なのか、それとも“コスト”なのか」

もしここで「人はコストであり、なるべく固定費を増やしたくない」という考えが強くなれば、育成投資は真っ先に削られる対象になります。

研修費、教育時間、育成担当者の配置――これらは短期的な利益には直結しないからです。

この瞬間、組織の中では目に見えないメッセージが発信されます。

「この会社は、人に長期的に賭けるつもりはない」

そのメッセージは、管理職を通じて現場に伝わり、やがて若手社員にも伝染していきます。


3. 評価制度が育成を殺すとき

もう一つ、育成が止まる決定的なポイントがあります。それは「評価制度」です。

もし管理職の評価が、

・短期的な業績数字だけ

・残業時間の削減

・人件費の圧縮

といった指標だけで決まるとしたらどうなるでしょうか。

部下を育てるために時間を使う行為は、評価上は“非効率”になります。

教える時間は売上を生みません。ミスをさせながら成長させるプロセスは、短期的には業績を下げる可能性すらあります。

この構造の中では、優秀な管理職ほど「自分でやった方が早い」「任せるとリスクが高い」と考えるようになります。

その結果、仕事は属人化し、若手は成長機会を失い、育成は“やっているふり”だけが残ります。


4. 「どうせ辞める」という前提が生まれた瞬間

育成が止まるもう一つの決定点は、組織の中に「人はどうせ辞める」という前提が広がった瞬間です。

離職率が高い会社ほど、こうした空気が強まります。

「教えても、どうせ3年でいなくなる」

「育てたところで、他社に持っていかれるだけ」

この考え方が定着すると、育成は“無駄な投資”になります。

すると会社は、即戦力採用に傾き、現場は「最初からできる人しかいらない」というスタンスになります。

この循環が続くと、組織は次第に“育たない人の集団”になります。

育てる文化がないため、次に入ってきた人も育たず、結果として「やっぱり人は定着しない」という自己証明が完成します。


5. 育成が止まる本当の瞬間

ここまで見てきたように、組織が人を育てなくなる瞬間は、研修をやめたときでも、OJTが形だけになったときでもありません。

本当の瞬間は、

「この会社は、人と一緒に長期的に成長するつもりはない」

と、組織のどこかで“暗黙の合意”ができたときです。

それは経営方針かもしれません。

評価制度の設計かもしれません。

人材戦略の見直しかもしれません。

しかし一度この合意が生まれると、育成は制度として残っていても、魂の抜けた“儀式”になります。

研修は受けさせる。面談もやる。計画書も作る。

けれど、誰も本気で「この人を育てよう」とは思っていない――そんな状態です。


6. それでも育成を取り戻すために

逆に言えば、育成を取り戻すポイントも、現場の気合や研修メニューの充実ではありません。

「この組織は、人と一緒に未来を作るのか」という問いに、経営として“YES”と答え直すことです。

評価制度に育成の要素を組み込む。

短期成果だけでなく、部下の成長やチームの自走度を評価する。

人材をコストではなく、時間をかけて価値が増える“資産”として扱う。

このメッセージが明確になったとき、初めて現場の行動が変わります。


まとめ

組織が人を育てなくなる瞬間は、現場の忙しさや上司の意識の問題ではありません。

それは、経営の視点、評価の仕組み、人材に対する前提が、「人と一緒に成長する」という方向から外れた瞬間に決まります。

育成とは制度ではなく、思想です。

その思想が失われたとき、どれだけ立派な研修制度があっても、人は育たなくなります。

そして逆に、その思想を取り戻せた組織だけが、長い時間をかけて“強い人材の循環”を作っていくのです。


本日はこの辺で。

次回もご期待下さい。


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